この一冊
この一冊 一生のうちにどれだけの本が読めるのだろう、と思うことがあります。
音楽とちがって本を読むのは骨が折れる作業で、それなりの努力も必要ですが、本を読むスピードは遅いし努力家でもないので、人に自慢できるほどたくさんの本を読んでいません。・・・などと言い訳しつつ、これまでに夢中になって読んだ本、目からウロコの落ちる思いをさせられた本などを紹介していきます。
我ながらかなり偏った読書傾向だと思いますが、何かの参考になればさいわいです。
本の表紙についてもCDやレコードのジャケット同様、著作権問題は付いてまわりますが、あえて掲載許可をとらずに撮影、あるいはスキャニングした画像を掲載していきます。
(著作権問題については「効能書」のページを参照)
最終更新日 2006/06/13

             
◆ 第1回  船戸与一 著 『蝦夷地別件』 新潮社 1995 ( '04/12/23 - '05/4/9 up )
  『蝦夷地別件』 新潮文庫 同時代の優れた冒険小説作家 船戸与一の長編小説。
18世紀末(江戸時代後期)、蝦夷地で繰り広げられる和人の横暴と、これに抵抗する先住民族アイヌの叛乱。 蝦夷地の直轄を狙い謀略をめぐらす幕府と、松前藩の争い。 フランス革命の余波に震えるペテルブルグで暗躍するポーランド貴族が、アイヌに鉄砲の調達を約束したのだが・・・。
さまざまな立場の登場人物たちが織り成す歴史巨編2800枚。
深い感動を受けた一作。
◆ 第2回  夢枕獏 著 『神々の山嶺』 集英社 1997 ( '05/1/30 - 2/24 up )
  『神々の山嶺』 集英社文庫 1924年6月8日、イギリスの第三次エヴェレスト登山隊第二次アタック隊として第六キャンプから8848mの山頂に向かったG・マロリーとアーヴィンの二人は、頂上ピラミッドへ続く稜線上の岩のステップに近づくところを同僚のオデルに目撃されたのを最後に、再び姿を見せることはなかった。
果して、マロリーは世界最高峰の頂きを踏んだのか?
70年後、マロリーが残した1台のカメラの謎を追う日本人カメラマンと彼の前に現われた伝説の日本人登山家・・・。 夢枕獏の長編山岳小説。
山好きのぼくには、たまらない一作。
 (エヴェレストの標高は1999年の精密な計測により8850mに修正されている)
◆ 第3回  池澤夏樹 著 『静かな大地』 朝日新聞社 2003 ( '06/6/3-4, 6/13 up )
  『静かな大地』 朝日新聞社 北海道で生まれた著者が、自らの先祖をモデルに、開拓期の和人とアイヌの人々の触れあいを描いた長編小説。
明治初期、北海道に入植したぼくらの先祖の筆舌に尽くしがたい苦労と、静かな大地(モシリ)≠奪われていく先住民族アイヌの人々を、これほど生き生きと描いた小説を他に知らない。
ぼくにとって、まさに目から鱗≠フ一冊。
◆ その他 ◆
  ■ 池澤夏樹 著 『むくどり通信』 朝日文庫 1997/2001  
  『むくどり通信』 朝日文庫 週刊朝日に1993年から98年までの6年間連載されたエッセイ集。
著者の博識と旺盛な好奇心を駆使して、日常生活の身近なモンダイから、遠い宇宙の果てまで思いを馳せる。 そして、著者が住む沖縄の自然と現実のさまざまな問題を熱く語る。
『むくどり通信』 『むくどり通信 雄飛編』 『むくどり通信 雌伏編』 の3冊。
週刊誌連載エッセイのため一つ一つがほどよい長さで読みやすく、楽しませてもらった。 単行本数冊分が文庫3冊にまとめられている。
  ■ 星野道夫 著 『ノーザンライツ』 新潮社 1997  
  『ノーザンライツ』 新潮文庫 「ノーザンライツ (Northern Lights) 」 とは、アラスカの空に輝く北極光、すなわち、オーロラのことである。 アラスカを愛し続けた写真家・星野道夫が、アラスカの原野や野生生物と共に生きようとした人たちの生涯を描く。
なかでも、第二次大戦後、シアトルからアラスカのフェアバンクスまで、真冬の空を小型飛行機を操縦して運搬した二人の女性パイロット、ジニー・ウッドとシリア・ハンターにスポットをあて、彼女たちとの交流から生まれた心暖まるエピソードの数々が胸を打つ。 カラー写真も美しい。
星野道夫の数ある魅力的な著作群の中でも、とりわけ感銘を与えてくれた一冊。 単行本も出ているが、ぼくは新潮文庫で読んだ。
  ■ 松居竜吾 他編 『南方熊楠を知る事典』 講談社現代新書 1993  
  『南方熊楠を知る事典』 講談社現代新書 慶応三年、紀州和歌山に生まれ、漱石や子規、柳田国男らと同時代に生きた博物学の巨人、南方熊楠(みなかたくまぐす)。
明治20年単身渡米。 独学で粘菌類の採集と研究に没頭、中南米を旅し、さらに英国に渡ってロンドンの大英博物館に勤務する傍ら世界中の書物を読み漁り、優れた英語論文で世界的な注目を集めながらも、帰国後は生涯、紀州(田辺)の自宅で研究を続けた稀有の天才。
世界遺産に登録された熊野の自然を、明治時代、森林伐採による破壊から守ろうと奔走した先駆的なエコロジスト≠ニしても有名(先般、NHKのTV番組「その時歴史が動いた」でも紹介された)。
日本の狭い学問≠フ枠に収まり切らない、広大な視野と知識を持ったこの不思議な人物を、さまざまなキーワードを切り口として11人の執筆者が描き出す。 新書版650ページの膨大な著述群。
ふとしたきっかけから南方熊楠を知り、その魅力にはまってしまったぼくにとって、実にありがたい一冊。 図書館から借りて読んだ後、どうしても手元に置きたくて(すでに絶版)、ネット販売で古本を手に入れた。
  ■ 鶴見和子 著 『南方熊楠』 講談社学術文庫 1981  
  『南方熊楠』 講談社学術文庫 著者の鶴見和子は、有名な思想家・評論家である鶴見俊輔の姉で、社会学者。 柳田国男に関する研究で知られる他、随筆を書き短歌も作る。
自ら書いているように「南方熊楠について晩学」だった著者が、熊楠の著作を通読し、社会学者らしい論理的な考察によって熊楠の仕事の現代的な意味を探った学術書。
「南方熊楠の世界」「南方熊楠の生涯」「南方熊楠の仕事」の3章から成る。 決して難解ではなく、丁寧な著述に頭がさがる。
熊楠という巨人を理解するための、ありがたい指針としてぼくは読んだ。
鶴見和子は、この著作の後も「萃点」というキーワード(熊楠が土宜法龍宛書簡で展開した「南方曼荼羅」に出てくる言葉)によって熊楠思想の考察を続け、『南方熊楠・萃点の思想』(藤原書店・2001年)にまとめている。
こちらも近いうちに読んでみたい。
  ■ 萱野茂 著 『アイヌ歳時記』 平凡社新書 2000  
  『アイヌ歳時記』 平凡社新書 北海道沙流郡平取町(びらとりちょう)二風谷(にぶたに)。
「二風谷ダム」で有名なこの土地に生まれ育った萱野(かやの)茂は、アイヌの伝統的な民具や民話の収集に力を注ぎ、二風谷アイヌ文化資料館を開設した人。 『萱野茂のアイヌ神話集成』『萱野茂のアイヌ語辞典』といった労作もある。
ぼくは、この人の著作から多くのものを学んだ。
二風谷ダムという和人≠フエゴとしか思えない建造物に最後まで抵抗したのも、萱野氏と、もう一人の貝澤正氏(故人)だった。
新書版のコンパクトな本だが、アイヌの人たちの豊かな文化が無駄なく紹介されている一冊。 イラストと写真も多い。 飾らない文体に、この人の人柄がよく出ていて好感がもてる。
「四季のくらし」「神々とともに生きて」「動物たちとアイヌ」「生きることと死ぬこと」「アイヌの心をつづる」の5章から成る。
  ■ 五木寛之 著 『歌いながら夜を往け』 小学館 1981  
  『歌いながら夜を往け』 小学館 五木寛之は1932年(昭和7年)生まれ。ぼくの父母の世代よりも少しだけ年少で、ぼくにとって伯父さん≠ニ言っていい年齢である。
ご多分にもれず、ぼくも若い頃にはこの伯父さん≠ゥら多大な影響を受けた。 頼りになる人だ。
昨年(2004年)5月、東京新橋のヤクルトホールで、五木寛之の「論楽会」が開かれたので行ってきた。
「日刊ゲンダイ『流されゆく日々』7000回記念」と銘打ち、多彩なゲストが出演した。 米良美一、ソンコ・マージュ、月田秀子、山之内重美、三上寛、そしてトリ≠ェ山崎ハコだった。 五木寛之を生で見るのは初めてだったが、五木さんも歳をとったなぁという印象を受けた。 しかし、ダンディーなところや独特の暖かいユーモアは変わっていなかった。
この本は、今から25年も前の「論楽会」の模様を活字にしたものである(1979年4月から1980年9月までの6回分)。
ゲストに、ソンコ・マージュ、岡本太郎、平岡正明、山崎ハコ、藤真利子、太田治子、三上寛、東陽一、並河萬里、中村とうよう、半村良、高橋洋子、C・W・ニコル、鈴木清順、恩地日出夫などを迎え、熱いトークとライブ演奏が繰り広げられた。 四半世紀たっても色あせない内容である。
集英社文庫でも出版されているが、元の小学館版の単行本の方が写真満載でお奨め。
  ■ 森口秀志 著 『上々颱風主義』 晶文社 1994 ( '05/4/20 更新 )
  『上々颱風主義』 晶文社 上々颱風(しゃんしゃんたいふーん) ―― このユニークで音楽性豊かなバンドに出会ったのは、4年前(2001年)のことである。
きっかけは(私事だが)、友人の若手女性シンガー・ソングライターが、このバンドのリーダー紅龍(こうりゅう)氏とライブ共演したことだった。
当時、スキンヘッドでひげもじゃのオッサン(紅龍)が、こんなに凄いバンドのリーダーだとは知らなかったのである。
初めてのライブ体験は、その年の7月7日 新宿花園神社での「七夕ライブ」。
毎年恒例の神社境内での野外ライブに参加して、仰天、感動したのだった。
翌8月、真鶴海岸(神奈川県)での野外コンサート「Green it 真鶴2001」。
上々颱風がトリ≠セったが、その前に高田渡が出演し、ぼくの高田渡体験もこの時が初めてだったのである。 いやはや出会い≠ニは不思議なものだ。
この本には、その上々颱風のデビュー(1980年「紅龍とひまわりシスターズ」、86年「上々颱風」と改名)から、執筆時点(1994年)までの活動が、余すところなく描かれている。 ことに、全国津々浦々を巡るライブ・ツアーや、海外ツアーの様子など、ぼくのように遅れて来たファン≠ノは、とてもありがたい。
巻末に、当時の7人のメンバー(そのうち、安田直哉と後藤まさるは後に退団、別のメンバーと入れ替わった)が、それぞれに個性豊かな一文を寄せているのもうれしい。
掲載写真も豊富。 上々ファン、ならびにファン予備軍の必読書。