上々颱風 『ためごま』

上々颱風 『ためごま』
1996 EPIC/SONY
 

鳥の歌  ( 上々颱風 )

● 上々颱風  ( しゃんしゃんたいふーん )

1980年に結成されたバンド「紅龍&ひまわりシスターズ」が、1986年「上々颱風」と改名。
男女7名のメンバーで活動開始。 その後メンバーの変動があって現在は6名。
2005年現在までライブ盤1枚を含め11枚のアルバムを発表している。

「鳥の歌」は1996年に発売されたアルバム『ためごま』に収録。 シングル盤も発売された。
『ためごま』は、東京都西多摩郡檜原村の山小屋で合宿しながら録音された異色作。
紅龍(リーダー/三弦・ボーカル)、西川郷子(ボーカル)、白崎映美(ボーカル)、吉田よしみ(キーボード)、渡野辺マント(ドラムス)、後藤まさる(パーカッション・笛)の6人のメンバーの他、後に正式メンバーとなった西村直樹(ベース)やゲスト・ミュージシャンが多数参加。
厚みのあるサウンドを聴かせている。
不思議なタイトルためごま≠セが、合宿生活の中でレコーディング兼ミキシング・エンジニアのケヴィン・モロニーが洩らしたゲイル語の「タメガァマッ」(I'm very happy の意)に由来するようだ(アルバム解説による)。

● 西川 郷子  ( にしかわ・さとこ )

横須賀市出身。 紅龍と共に上々颱風の最古参メンバー。
ボーカルの他、チャンゴ、ケンガリ(いずれも韓半島の伝統的な打楽器)を演奏する。
澄んだ高音の歌声でファンを魅了している。
数は多くないが、自身のソロ活動(ライブ)や他のミュージシャンのアルバムへの参加もある。

この「鳥の歌」の録音では、イントロ部分のケンガリ(日本のあたり鉦≠ノ似た形で小型のドラのような金属製打楽器)の演奏を後藤まさるが担当しているが、ライブ演奏では西川郷子がケンガリまたはチャンゴ(両面太鼓)の長いソロを聴かせる。

● 鳥の歌

「鳥の歌」で思いうかべるのは、チェロ奏者パブロ・カザルスが好んで演奏したカタロニア民謡「鳥の歌」である。
スペインのカタロニア地方はカザロスの生まれ故郷。 ご承知のようにフランコ政権に抵抗して国外生活を送った彼の望郷の思いが強くこめられている。
この民謡の原詩を知らないので、ぼくの勝手な思いこみかもしれないが、「鳥の歌」の哀愁に満ちたメロディーにも、なにかしら鳥への憧れ=i自由への憧れ)を感じる。
―― と書いたところで、調べてみると、実際には下に引用したような宗教的内容らしい。

私は、カタロニアの古い祝歌(キャロル)「鳥の歌」のメロディでコンサートをしめくくることにしています。 その歌詞はキリスト降誕をうたっています。 ・・・このカタロニアの祝歌のなかで、みどりごを歌い迎えるのは鷹、雀、小夜啼鳥、そして小さなミソサザイです。 鳥たちはみどりごを、甘い香りで大地をよろこばせる一輪の花にたとえて歌います。
 《 『パブロ・カザルス 鳥の歌』 (ジュリアン・ロイド・ウェッバー 編/池田香代子 訳/ちくま文庫) 》

ともあれ、大空を自由に飛びかう鳥への憧れは古くから人類共通のものだったと思う。
そういえば五木寛之の小説にも『鳥の歌』というのがあったのを思い出す。
日本のポピュラー音楽にも中島みゆきが加藤登紀子に提供した『この空を飛べたら』という名曲がある。
ああ 人は昔々 鳥だったのかもしれないね こんなにも こんなにも 空が恋しい=@という歌詞には、卑俗な失恋歌を超えたスケールの大きさがある。

上々颱風の「鳥の歌」も、この系列の歌だとぼくは思う。
歌詞はいたってシンプル。 難しい言葉は使われていない。
表面の意味を追うだけなら、離れてしまった恋人へのせつない思いを歌うラブ・ソング。
だが、歌はメロディーがあって初めて生きるものだ。
この歌は、ぜひ音源を聴いてほしい。

もしも鳥に生まれたなら  何の歌をうたえばいい
もしも星に生まれたなら  誰のために光ればいいの ・・・

あの日あなたに出会わなけりゃ  どんな夢を抱きしめよう
もしも森にさまよったら  誰の名まえを呼んだらいいの ・・・

エンディングは感動的な盛りあがりをみせる。

百の恋歌  空より高く
鳥はうたうよ  あなたを呼んで
千の恋歌  きらめく光
星はうたうよ  あなたの胸に ・・・

カザルス 『シューマン/チェロ協奏曲』

パブロ・カザルス
『シューマン/チェロ協奏曲』
「鳥の歌」収録


中島みゆき 『おかえりなさい』

中島みゆき
『おかえりなさい』
「この空を飛べたら」収録


加藤登紀子 『愛する人へ』

加藤登紀子
『愛する人へ』
「この空を飛べたら」収録
 

● ムグンファ

上々颱風の「鳥の歌」には、ずっと前から気になる一節があった。

いついつの日も 好きだと言ってた
ムグンファ飾ろう 風にさざめくように ・・・

いついつの日か あなたの生まれた
ムグンファゆれてる 丘へ帰ろうきっと

このムグンファ≠ェぼくには謎だったが、つい最近、ムクゲ=i槿、木槿とも書く)のことだと知った。 なんだ、そうだったのか。
韓国の国花でもある無窮花(ムグンファ)≠ネどという、一般に耳慣れない言葉を使った特別な意味が何かあるのか? そう考えると、なかなか興味深い。
ぼくは上々颱風の遅れてきたファン≠ネので歌ができた頃の事情を知らないが、彼らは1993年に韓国ツアーを敢行しているから、このツアーの時に韓国で見たムグンファの花が、作曲者 紅龍の頭にあったのかもしれない。
あるいは、韓国のミュージシャンとも交流の深い上々颱風のことだから、誰かからヒントをもらったのかもしれない。

そんなことをつらつら思いながら聴いていると、この歌のイメージはどんどんふくらんでいく。
優れた詩や歌詞は、ごくありふれた言葉の組み合わせで実に豊かな情景を描きだす。
上々颱風にはそういう名曲が多い。
 

※ 「ムクゲ」  Hibiscus syriacus  フヨウ属の落葉低木
  生け垣などによく植えられる。 よく分岐して高さ3〜4メートルになる。
  葉は互生し、長さ4〜10センチの卵形で浅く3裂し、ふちにあらい鋸歯がある。
  7〜10月、枝先の葉脇に直径6〜10センチの花を開く。
  花は1日花で、普通紅紫色だが、白花や八重咲きなど多くの園芸品種がある。 花弁は5個。
   《 山と渓谷社 『山渓カラー名鑑 日本の樹木』 から転載 》

このムクゲは、見わたせば身のまわりにたくさん見られる花だった。

ムクゲの花 (1)

ムクゲの花 (2)

ムクゲの花 (3)

( 2005/9/11-12 )